「金時草」
調査情報部
鮮やかな赤紫と緑のコントラストが目を引く「金時草」は、石川県で伝統的に栽培されている野菜のひとつです。原産地は熱帯アジアで、日本へは18世紀に中国から渡来し、熊本県で古くから栽培されていました。石川県での栽培は、江戸時代に金沢の農家が熊本から持ち帰り自家用に栽培したのが始まりといわれており、商品としての栽培が広まったのは昭和に入ってからのようです。
標準和名は「水前寺菜(スイゼンジナ)」ですが、葉の裏面の鮮やかな赤紫色が「金時芋」や「金時豆」に似ていることから、石川県では「金時草(キンジソウ)」と呼ばれるようになりました。
「金時草」の主な産地は金沢市花園地区、白山市鳥越地区、かほく市で、22年度の生産農家数は39戸、作付面積4.4ヘクタール、出荷数量は63トンでした。主な出荷先は石川県内と東京・関西の卸売市場で、旬は6~11月ですが冬の施設栽培との組み合わせで周年出荷されています。
見た目の特徴は何といっても葉の色です。表は緑色、裏は赤紫色で、先のとがった長楕円形をしています。食べるとシャキシャキとした食感があり、ゆでるとぬめりが出てきます。
栽培上の特徴は、乾燥に弱く生育の適温が20~25度で、1日の温度差が大きいと葉の裏面の赤紫色がきれいに発色するため、山間部での栽培に適しています。
金時草研究会の西会長に「金時草」の栽培についてお話を伺いました。
栽培で苦労する点は収穫作業で、乾燥に弱く、湿気がないとしおれてしまうため、朝露・夜露のある間に収穫しなければなりません。夏場は早朝4時から収穫し、ひとつひとつ長さを切りそろえて袋詰めしますが、作業は全て手作業です。葉の裏面の赤紫色を鮮やかに仕上げるのも難しく、気温が高すぎると色が薄くなりきれいに発色しなくなります。今まで産地では山間の影が出来る畑などでの栽培を行い、高温を避けてきましたが、ここ数年の猛暑ではそれでも対応できない時があり、県が開発した遮光ネットによる技術を試験的に取り入れるなどの取り組みを行っています。鮮やかな赤紫色に育った時は、何とも言えない喜びを感じるそうです。また、花園地区では水の便が悪く水源は雨水に頼っており、マルチの上から稲わらをかぶせて根元の水分を保っています。
生産者の高齢化や後継者不足の問題もありますが、生産性の向上や省力化技術の開発、販売促進など、県や市町、JAと生産者がプロジェクトを組み、一体となって「金時草」の生産振興を推進しています。
金時草のほ場風景
勉強会の様子
「金時草」は体にもうれしい健康野菜です。一般的な食べ方はさっと茹でて酢醤油で和えた酢の物ですが、天ぷらや炒め物など色々な調理法で楽しんでいただけますので、ぜひ「金時草」をご賞味ください。
ミネラルやビタミン類をバランスよく含んでいますが、特にカロテンやビタミンC、鉄分が多く含まれています。また、「金時草」の特徴でもある赤紫色の成分“アントシアニン”には活性酸素を抑制する抗酸化作用があるため、動脈硬化の予防やアンチエイジングに効果を発揮するほか、γ-アミノ酪酸(GABA)が含まれているため、血中コレステロール低下作用なども期待できます。(参考文献:「地域特産物の生理機能・活用便覧」)
①米2合は30分前に洗い、昆布5センチ角と酒小さじ1を入れて普通に炊きます。②金時草1/2束は塩を少々加えて30秒~1分間茹で、水からあげて冷まし、水気を取ってから1センチ角位になるように切り、すし酢(酢70cc、砂糖大さじ2、塩小さじ1)につけて置きます。③ご飯が炊けたら、②と白いりごまをご飯に混ぜて出来上がりです。
「酢の物」
「金時草ずし」
お問い合わせ先:石川県農業総合研究センター中央普及支援センター(TEL:076-257-9150)
写真提供:石川県農業総合研究センター