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地域だより


野菜生産の一つの形-地域という業態 由布院でのセミナーから

福岡事務所


今なぜ由布院か
 福岡事務所は、食の安心と安全を前提とした地産地消をテーマとしたセミナーを提唱し、九州農政局、九州経済産業局や大分県等の後援を得て、内閣府食品安全委員会、由布院温泉観光協会との共催で、平成17年12月16日(金)に「クアージュゆふいん」において「食をめぐるヒトと地域の新機軸in由布院セミナー」を開催した。

 由布院は、全国的に「ブランド」として確立した観光業を中心として、地域の産業が共生する活力に満ちた町である。県内の一人当たりの所得を見ても、県庁所在地の大分市や特定産業を有する市町村がある中で、中山間地域ながら県内上位に位置している。また、地域の人が元気である証左として、一人当たりの医療費が県内で40位程度という低水準にとどまっており、高所得低医療費の町と言える(平成17年10月1日の市町村合併前の湯布院町におけるデータによる)。

 農業分野についても、旬の農産物の旅館等への供給により、自身の経営のみならず、由布院という地域ブランドの強化につながっており、関係者への示唆に富む地産地消の一つの在り方を示していることから、由布院でのセミナーを開催したものである。

 (注)農林水産省の地産地消推進検討委員会の「地産地消推進検討会中間取りまとめ-地産地消の今後の推進方向-(平成17年8月)」において、地産地消の今後の推進方策として、「優良事例の収集・提供」、「観光業等における地産地消の推進」等が課題として指摘されている。

料理人と一体となった野菜生産
 由布院在住の江藤雄三氏(江藤農園)は、米作1.3haのほか、野菜についてはハウス12~13棟、露地を合わせ2ha、年間30種類を超える野菜を生産し、地域の旅館、ホテル20数軒に供給している。米については、生産者の販売価格は通常6,000~6,300円/30kgのところを、江藤氏は10,000~15,000円/30kgで販売している。また、供給する旅館等の料理長達と毎年1月に作付会議を開き、年間の栽培計画を立てて生産を行っており、この中には京野菜、はなきゅうり等料理人の要望に沿う野菜も含まれている。

 このような料理人と一体となった形での野菜生産を行っており、畑から10分で配達を行うなど、料理人にとっては、鮮度が高い等の品質面だけでなく、自らの料理に沿った形での供給が行われている。

 江藤氏の立場からは、曲がったもの等の一般に規格品外とされるものであっても、料理に支障のないものは、相当の値段で取引されることにより無駄のない効率的な利用が行われている。
 料理人の相本邦生氏(由布院料理研究会)は、江藤氏のような農業者と一体となることにより、旅館等の利用客に旬の野菜を供給することで質の高い料理を提供できると評価している。

「ココ市場」
 中谷健太郎氏(亀の井別荘オーナー)は、由布院に「市場が出来ればよい」と言っている。京都の「錦市場」や金沢の「近江町市場」には、地元産の野菜に加えて全国から品質の良いものが安く並んでいる。すべての野菜を由布院で生産することは、無理があり、由布院でも料理人達と野菜生産者をつなぐ問屋機能を持った「ココ市場」が出来ればよい。「ココ」は「ココ一番」の意味もあるキーワードである、と言う。

 「ココ市場」は、料理人と生産者が一体となって取り組んでいる地域が全国に相当数生まれお互いに連携することによって、江藤氏のような安定した農業経営を行う生産者が増えることにもつながり、全国の観光地においても料理人達が旬の野菜を使用することにより質の高い料理を提供できることになる。

ホンモノの生産と地消地産
 河野和義氏(株式会社八木澤商店代表取締役社長)は、岩手県陸前高田市で創業200年あまりの醤油醸造業を営んでおり、岩手県産丸大豆と南部小麦、天然塩を使用し1年から2年かけた古式製法による醤油造り、自家栽培キュウリの販売とそれを利用した古漬けの生産を行っている。

 きゅうりは通常、かぼちゃに接ぎ木して栽培されるが、河野氏が栽培するきゅうりは接ぎ木しない自根きゅうりで、糖度の高い本来のものである。銀座にある岩手県のアンテナショップでこのきゅうりを販売した際、通常のきゅうり1本が38円のところ、100円という値段にもかかわらず完売した。また、必要最小限の苗の殺菌や殺虫剤代わりに醸造酢を使用、また羊毛や希釈した海水等を加えた土作りにより栽培された「健康野菜」であり、商品としての付加価値が高かったため、消費者に受け入れられたのだと考えられる。

 また、河野氏は「地産地消」という言葉が横行しているが、その言葉の裏には「地消地産」があると言う。「消費があってはじめて生産があり、ただ地元で野菜を生産すれば売れるというものではない。今後の農業は、農業だけを考えるのでは不十分であり、すべての産業を横断的に包括して考える必要がある。循環型産業を守っているか、健康や本来の味等をテーマにしているか、ホンモノを生産しているかが重要なポイントである」とのことである。

食の乱れと料理の大切さ
 中村靖彦氏(内閣府食品安全委員会委員)は、講演で食の簡便化を取り上げ、無洗米やカット野菜、骨を除去した魚の話をされ、また、高橋陽子氏(ライター)は、食の実態調査について、今の消費者の中でも特に若者は朝、昼、夕食という概念が壊れており、その食事内容に至るやおやつを食事としてとらえたり、同じ調理済み食品で1週間過ごすなど、食の乱れは想像を絶するものがある。若者の食事の内容は、調理済み食品やおやつを含めた加工食品が主となっており、旬のものを自ら調理するということが見られないという。由布院のコンビニエンスストアの売り上げは県内で1位という皮肉な結果をもたらしている。

 中谷氏はこのようなことを踏まえ、スペインのバスク地方にある美食クラブの話を紹介し、普段厨房に入らない一家の主たる男性が定期的に集まって地元の野菜等の食材を使って料理を振る舞うという活動は、非常に大事な取組であると強調していた。

 なお、江川清一氏(大分県庁農林水産部審議監)は、大分県では地域の食材を学校給食に導入する取組を積極的に進めているが、学校給食費が低額であるため地域の良い食材を導入する上で課題になっていると指摘している。

新たな業態としての農業へ
 松井哲夫氏(九州経済産業局長)によれば、九州という地域は、福岡県や大分県はトヨタ自動車やキヤノンの進出により良好な状況にあるものの、九州全体としては公共事業の抑制等により厳しい状況である。九州は、大農業生産県、農業生産拠点であり、食を巡る産業について地域ブランドを育てる等、経済産業省としても商標法を改正する等支援しているところであり、今後、役所ベースでの縦割りの弊害を除去し連携して取り組むことが必要であるとのことである。

 由布院では、江藤氏の例に見られるように、料理人と一体となった野菜生産を行うことにより、年間を通して安定した農業経営の設計が成り立つとともに、旅館の利益の一部が農業経営に還元されることから、大量生産大量流通形態の野菜生産と比較した場合、高い所得と安定経営が確保される構造となっており、新たな野菜の流通形態が構築されていると言える。また、江藤氏のような生産者が由布院だけでは数が少ないことから、安定供給のためにも、このような取組に参加する野菜生産者が増えることが望ましいのではないだろうか。さらに、地域産業(特に食品産業について)を横断的に包括した1次+2次+3次の第6次産業としてとらえ、第6次産業化した地域における観光までを含めた地域産業を第7次産業と認識し、農業だけでなく各産業を横断的にとらえた新たな産業形態を河野氏は提唱している。

おわりに
 なお、今回の由布院セミナーにおいては、野菜をめぐる現状と課題、地域におけるコンプライアンスの創成、地域ブランドの意義、食育の大切さ、生き甲斐のもてる地域づくり等、様々な話題について話し合われ、収穫の多いものとなった。

○食をめぐるヒトと地域の新機軸 in由布院セミナーについて

開催日時 平成17年12月16日(金)13:30~16:30
会  場 クアージュゆふいん多目的ホール
提  唱 独立行政法人農畜産業振興機構(福岡事務所)
主  催 食品安全委員会、由布院温泉観光協会、独立行政法人農畜産業振興機構
後  援 九州農政局、九州経済産業局、大分県、由布市、社団法人ツーリズムおおいた、大分合同新聞、NHK大分放送局

開会挨拶 志手 淑子(由布院温泉観光協会長)
講  演 中村 靖彦(内閣府食品安全委員会委員)
      講演テーマ「地域のくらしと食育」
     河野 和義(株式会社八木澤商店代表取締役社長)
      講演テーマ「食の地元学」

問題提起 問題提起者
   江藤 雄三(江藤農園)
   相本 邦生(由布院料理研究会)
   高橋 陽子(ライター)

意見交換 コメンテーター
   松井 哲夫(九州経済産業局長)
   江川 清一(大分県農林水産部審議監)
   中谷 健太郎(亀の井別荘オーナー)






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