独立行政法人 農畜産業振興機構
福岡事務所
九州では、近年、地産地消運動が活発化しており、各地で生産者と消費者の顔の見える関係の構築、農畜産物の情報発信、農畜産業と観光産業連携による地域活性化など多様な取組みがみられる。このため、九州農政局では、昨年度に引き続き農畜産業振興機構との共催により平成16年12月2日熊本市のパレアホールで「顔の見える関係づくりに向けて」と題して第3回九州地産地消推進シンポジウムを開催した。
シンポジウムには、九州の各県から生産者、消費者、流通業者、行政関係者など約300人の方々が参加され、熱心な議論が行われた。
基調講演の概要
基調講演では、「九州のムラ」編集長の養父信夫氏から、
(1) 生産方法にこだわって、多くの手間をかけて作った作物もその価値に見合った適正な価格で販売することは容易でなく、安全・安心だけではなく、商品の背景にある物語も発信していくことが重要、
(2) ムラの生産者が丹精込めて作った安心・安全で新鮮な食材をマチに暮らす人々に正直に伝えたいという思いを込めて、福岡市に「九州のムラ市場」を開設し、生産農家が対面販売で買う人と会話を交わし、顔の見える関係を作りながら色々な情報を消費者に伝えることで、生産物の価値を高めている
などの話があった。
また、大分県大山町農林振興課長の黒川今朝光氏から、
(1) NPC運動による自立自助の町づくりにより農家所得も向上した大山町では、バブル崩壊後農家収入が減少したが、その要因が流通販売コストに起因していたことから、これまで以上の収入を得る方策として、グリーンツーリズムの先駆けとして消費者を大山町に呼び、生産物を消費者に直接、安価(コストの限界)で販売することとした、
(2) ただし、生産物は市場出荷により評価が得られることから、市場出荷をおろそかにしてはならない
などの話があった。
パネルディスカッションの概要
九州大学大学院助教授の福田晋氏をコーディネイターとして、各地で地産地消に取り組んでいる鹿児島県経済連有川唱次安心安全システム推進事務局長、キリンビール(株)斎藤信二九州地区本部長、熊本消費者協会坂口真理副会長、由布院観光総合事務所米田誠司事務局長の4氏に、養父氏と黒川氏を加えたパネリストの方々により、パネルディスカッションが行われた。
冒頭、福田氏から、顔の見える関係づくりの背景として、既存の流通に対する反省から自らのマーケットへ進出しようとしている生産者もみられること、生産者サイドと消費者サイドの間の流通媒介プロセスが複雑化しているため、農と食の距離が拡がり、顔が見えにくくなっていることなどの状況説明があり、続いてパネリストから、
(1) 各県ごとにテーマ食材を決め、各県JA、新聞社などと協力して、ビールにあうアイデア料理コンテストやスーパーでの野菜とビールの関連販売、レシピ集の配布などの活動を展開し、生産者と消費者をつなぐ地産地消活動の応援を行っている、
(2) 西郷(隆盛)マーク認証制度による安全な地元産の農産物の提供、ビール会社との連携による県内産農産物の拡販に取り組んでいる、
(3) 消費者の意識も多様化する中で、小規模なレベルでの生産者と消費者の交流を重ねることが必要であり、牛肉トレーサビリティは情報提供という点で一歩前進である、
(4) 町内の旅館と農家が連携し、おいしさを追求し、旅館に食材を安定的に供給できる体制を構築しつつ地元の味のレベルアップを図り、農業と観光産業が連携して地域を活性化させている
などの報告があった。これらの報告を踏まえ、
(1) 消費者の生産者との交流による生産物と生産農家についての正しい情報の共有、
(2)消費者への食に関する意識調査の結果(意識と行動が伴う者約2割、意識をしているが行動しない者約5割、全くの無関心者約3割)を踏まえ、5割の中間層への情報発信の重要性、
(3) 生産物の地産地消と市場出荷の棲み分け
などについて議論が行われた。
最後に、福田氏から
(1) 生産者自らマーケットへ進出する場合(直売場など)、サ-ビス業や食品産業と同じような競争をするのではなく、地域の風土、文化に根ざして独自理念を持つことが重要なこと、
(2) 消費者に対して産地側からもっとアプローチする必要があること、
(3) 食に関心のない階層が増えていることを危惧しているが、意識が高ければ消費者と産地の連携に繋がること
などの集約が行われ、盛会のうちにシンポジウムを終了した。