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調査・報告 野菜情報 2024年12月号

木質バイオマス発電と次世代型施設園芸を組み合わせた地域密着型農業クラスターの取り組み

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国立大学法人 高知大学 農林海洋科学部 農林資源科学科  准教授 宮内 樹代史

1 はじめに

 近年、わが国の施設園芸を取り巻く環境は非常に厳しいものとなってきており、農業従事者の高齢化による栽培面積の減少や担い手不足、施設の建設や運営に関わるコストの上昇、技術的スキルの継承など、さまざまな課題が噴出している。これらに対処する方法として、ITや自動化技術の導入や、施設の大型化が進められており、環境モニタリングシステムを装備した次世代型園芸拠点が全国的に展開している(1)
 高知県では、2016年に次世代型施設園芸高知県拠点(高岡郡四万十町)が稼働して以降、軒高2.5メート以上で耐風速35メートル/秒以上の環境制御装置を装備した次世代型ハウスが23年度で90.4ヘクタールに達し、広がりを見せている。また、CO2施用(光合成を促進して野菜の収量を上げることを目的に、施設内の二酸化炭素の濃度を人工的に高めること)を中心とした環境制御技術の導入率は、「中小規模園芸ハウスを対象とした複合エコ環境制御技術の確立」(農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業、課題番号:24024、2012~2014)に関する研究をきっかけに、18年に県内主要7品目で50%と加速した(2)。図1に高知県内のピーマン栽培におけるCO2施用技術の普及状況を示す(3)
 併せて、高知県では地域農業の核となる担い手の確保に力を入れ、地域と協働した企業の農業参入を支援しており、地域共同型の農業クラスターが県内10地域で形成されている。これにより、地元の人材を新たな担い手として雇用し、各地域の基幹品目の栽培面積や生産量の増加が図られている(4)
 これらの取り組みのうち、本稿では、本山町施設園芸生産拡大プロジェクト(以下「本山プロジェクト」という)として行われた、「エフビットファームこうち」での先進的な取り組みを紹介する。
 
タイトル: p036a

2 エフビットファームこうちの概要

 表にエフビットファームこうちの概況を示す。当施設は、高知県本山町(もとやまちょう)で展開する総面積2万1570平方メートルの、木質バイオマス発電所と次世代型園芸施設を組み合わせた施設である。2000キロワット級の木質バイオマス発電所の廃熱や廃ガスを、隣接する次世代型園芸施設で再利用している。写真1に次世代型園芸施設の外観と施設内での選果の様子、写真2に発電施設と蓄熱タンクとバックアップボイラーの外観を示す。木質バイオマス発電所では、約4000世帯が年間に消費する電力相当を再生可能エネルギーとして発電することができ、次世代型園芸施設では、県内最大の年間240トンのパプリカを生産している。
 園芸施設は軒高5.9メートル、間口8メートルの次世代型施設園芸ハウスで、栽培面積はおおむね1.3ヘクタールである。栽培方式はハイワイヤー方式の養液栽培で、3本仕立てで2万5000株を定植している。1日当たりの収量は0.8~2トン程度で推移しており、年間収量は240トンとなっている。高知県のパプリカ生産量はこれまで94トン程度であったため、当施設での生産により県内のパプリカ生産量を大きく押し上げることとなった。日本でのパプリカ生産量は約7380トン(22年)で、これと比較した場合、当施設での生産量は国内生産の3.2%を占めることとなる。
 発電用の使用燃料は木質バイオマスであり、木質チップが中心である。高知県は森林率が84%と全国で最も高く、豊富な森林資源を背景に木質バイオマスの活用が進められている。原材料として使われる木材は、間伐材が95%、一般材が5%である。また、暖房負荷の大きい厳寒期を中心に重油ボイラー2基が稼働しており、園芸施設でのエネルギー負担率は20~25%となっている。地域の未利用森林資源の活用は、SDGs(接続可能な開発目標)の観点にも即した取り組みであり、持続可能な営林、営農に貢献する。なお、園芸施設での廃液はリサイクルし(廃液を回収し植物が吸収した成分を補って再度給液に施す)循環利用することで、廃棄処理30%削減を達成している。
 
タイトル: p036b
 
タイトル: p037

3 地域資源を活用したトリジェネレーションシステムの運用

 施設園芸におけるトリジェネレーション(Tri-Generation)は、エネルギーの効率的な利用を目的としたシステムで、電力、熱、CO2の三つを同時に供給する技術である。発電時に発生する廃熱を利用して熱エネルギーを生成するとともに、発電用燃料燃焼時の廃ガスを光合成促進のためのCO2供給源として用いる。このシステムは、再生可能エネルギーと組み合わせることができ、エネルギーコスト削減や環境負荷低減への寄与が期待されている。施設園芸の先進国の一つであるオランダでは、天然ガスを発電用燃料としたトリジェネレーション技術の導入が進んでいる。
 当施設でのトリジェネレーションでは、木質バイオマス発電で発生した220度程度の蒸気廃熱を保温し、70度の温水として貯留したものを園芸ハウスへ供給している。温水を熱供給パイプに循環させ、園芸ハウス内で放熱させることで、設定夜温18度を維持する。CO2供給は、発電用燃料として木質バイオマスを燃焼させた時に生じる廃ガスを利用し、ガス中の不要成分を分離した後に園芸ハウスへ送出する。園芸ハウス内では標準的な施用ダクトなどを用いて植物近傍(きんぽう)にCO2を施用する。CO2施用による光合成促進の効果は、通常の施用方法と同等であり、供給源としてのLPガスや灯油の燃焼装置を必要としない。そのため、昼間の不要な加温もなく、環境調節上のコストも抑えられる。従って本システムは、再生可能エネルギーである木質バイオマスを発電燃料としたクリーンな電力を供給すると同時に、地域の未利用森林資源を発電に、さらに発電で生じる熱とCO2を農業に有効活用できる画期的なシステムである。本施設の稼動は、地域の林業および農業振興に寄与し、農業クラスターの核となっている。

4 本山プロジェクトの取り組み

 本山プロジェクトは、高知県(農業振興部農業イノベーション推進課)の支援を受け、エフビットファームこうちを核に、本山町農業公社による町内施設園芸農家への苗供給、本山さくら市場での特産品の契約販売などを結んだ農業クラスタープロジェクトである。エフビットファームこうちの稼動により、木質バイオマス発電所からの熱およびCO2供給による効率的な生産システムを実現しただけでなく、多くの地域雇用を創出した。図2にプロジェクトによる雇用効果を示す(5)。特に園芸施設では、雇用される者すべてが地元採用であり、県内の農業大学校出身者も栽培面でのリーダーとして活躍している。就労先が少ない本山町のような中山間地域での雇用創出が若年世代の注目を集めれば、地域活性化に寄与するものと考えられる。また、施設の稼動後は、害虫対策や農薬使用について、地域の改良普及所(高知県中央東農業振興センター 嶺北農業改良普及所)から、指導を定期的に受けている。

タイトル: p038

 このような本山町でのバイオマス発電所×次世代型園芸施設のトリジェネレーションの取り組みは、バイオマス発電所の特徴であるカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)に加え、そこから出た排ガスをCO2のみにし再度農園側へ供給していることから、より環境に配慮したカーボンマイナス(カーボンネガティブ)を実現している。図3にプロジェクトの概念を示す。このような組み合わせは国内ではまれであり、再生可能エネルギーを用いた発電のみならず、営農企業としても地域を支える大きな基盤となる。

タイトル: p039

5 おわりに

 企業による農業参入は担い手を確保するための一つの手段であり、生産面積の維持・拡大、地域活性化に大きな効果をもたらすことが期待される。しかし、企業を誘致するための用地確保をはじめ、地元自治体との連携が欠かせない。また、参入後の支援も必要である。本稿で紹介した事例は、地域密着型農業クラスターの構築という点で先進的なモデルであり、今後のプラットフォームとして参考になると考えられる。
 

参考文献
(1)農林水産省生産局,“次世代施設園芸の全国展開”,農林水産省,2014-07, https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/NextGenerationHorticulture/pdf/siryou4.pdf (参照2024-04-01)
(2)宮内樹代史,“高知県における環境制御・省エネ技術開発の取り組み ―中小規模施設向けの複合エコ環境制御技術を中心として―”,施設と園芸,No.162,62-65,2013
(3)宮内樹代史,“施設園芸における低コスト生産のヒント”,施設と園芸,No.200,59-63,2023
(4)高知県農業振興部,“高知県の園芸”,高知県農業振興部イノベーション推進課,2024-03
(5)エフビットファームこうち,“本山プロジェクト”,エフビットファームこうち,2020-03
   https://fbitfarm-kochi.co.jp/(参照2024-03)