話題(野菜情報 2015年10月号)


都市農業の役割と課題

東京都農業会議会長         
明治大学公共政策大学院教授 青山 佾

 平成27年4月に成立した都市農業振興基本法は、「都市農業の安定的な継続を図るとともに、多様な機能の適切かつ十分な発揮を通じて良好な都市環境の形成に資することを目的」とし、基本理念として「①都市農業の多様な機能の適切かつ十分な発揮と都市農地の有効な活用および適正な保全が図られるべきこと、②良好な市街地形成における農との共存が図られるべきこと」などが定められた。

 従来、わが国の都市計画法は「市街化区域は、すでに市街地を形成している区域およびおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とする」と定めていて、現に農地であっても、「おおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき」としている。一方、昭和49年に生産緑地法が定められ、指定された生産緑地については、固定資産税や相続税が減免され、営農を継続できるようになった。

 すなわち、市街化区域内の農地については、国家としてはあくまでも「緑地」としての価値を認めているにすぎないのであって、「農地」としての価値を認めるのは避けていた。今回の都市農業振興基本法は、都市において農地の存在に意義を認めており、発想の転換が行われた訳である。

 都市計画法は都市の農地を緑地と考えていても、都市生活者にとって都市農地は単なる緑地ではなかった。都市生活者にとって食は重大な関心事であり「農はこうあってほしい」という願いがある。願いの第一は、どういうところでどういう人がどのような肥料を使用して、どういうものを作っているかを知ることによって安心して購入したい。これが原点だ。

 農業者の側も、そういう都市生活者の気持ちを理解して、都市生活者を生産地に呼んで見てもらう、場合によっては手伝ってもらう、など交流を深めている。都市生活者と農業者の交流は結構盛んで、農業者の側からも都市生活者に対してさまざまな働きかけをする傾向がある。市場を通さず、直接、都市の商店に生産物を卸したり、農場の前に「ここで作りました」などという看板を立てて直売したりすることから始まって、インターネットで直販したりする。都市に出向いて販売することもある。そういうコーディネーターを務める人たちもいる。

 ひところは、大型スーパーが大量に産地から直接購入したり、例えば東京都のキャベツの産直みたいに自治体が直接産地から購入したり、ということがあったが、今では、流通形態が多様化して、都市生活者と農業者の間にいろいろな関係が成立している。いわゆる庭先販売や、商店の一部を借りるインショップ販売も盛んになった。

 近年は、卸売市場の機能も変化している。私が東京都中央卸売市場の施設整備担当の係長をしていたのは四十年近くも前のことだが、あのころ、いわゆる市場外流通の増加に対する危機感が卸売市場の側にあった。現代は、市場流通か市場外流通かという問題の立て方ではなく、大小含めて多様な流通の中軸として卸売市場があると考えるべきではないか。

 都市農業には、①生産者と消費者の距離が近いため相互理解が進み、それを生産・消費に生かすことができる、②都市農業の存在が人々の安全・安心、リサイクル、有機農業、みどりへの欲求など21世紀的価値観に合致するし、場合によっては都市生活者自身が生産に関わることができる、③食料運搬距離が短縮し、省エネルギー的であり地球温暖化対策にも資するし、同時に農地が防災上役に立つ、などの意義がある。

 農林水産省の「都市農業に関する実態調査結果」(平成23年)によると、市街化区域とその周辺の農業(同調査による狭義の都市農業)の農地面積は19万8000ヘクタールで全体の4%となるが、農業販売金額は4676億円で全体の8%を占め、都市農業は今日、わが国の農業の中で、農業販売金額においても確固たる地位を占めている。また、同調査の対象農家のうち、69%が露地野菜と最多で、施設野菜も12%を生産していると回答(複数回答を含む)するなど、都市農業において野菜は重要な作目となっている。

 都市農業振興基本法は、政府による都市農業振興基本計画の策定を義務づけ、「都市農業の振興に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上、税制上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない」としている。農地への宅地並み課税によって減少の一途をたどってきた都市農地にとって、この条文が実質化されるか否かが今後、この法律が生きるかどうかを占う鍵となる。27年から相続課税が強化された今、この点についてはスピードも求められる。

 都市農業振興基本法は地方自治体にも、国の基本計画を踏まえた地方計画の策定を促している。税制は政府の仕事であるとしても、担い手の育成・確保や市民農園・体験農園の整備、直売所や給食を含む地産地消の促進、食農教育の充実なども、国や自治体の基本的施策として求められている。

 戦後ずっと日本の自治体は、農地を削減し宅地を増やしてきた。ある一定の場所では、農地を宅地に転用することはこれからもあるだろう。だが全体として、人口減少時代に入り農地を減らし宅地を増やす時代は終わった。今までも、日本全国の都市内において農業は営まれてきたが、基本的な政策の流れとしては、これからはこれら都市農業を守り充実する時代がきた。全国の自治体はそういう角度から土地利用計画を見直さなければならない。

 長期的な担い手の育成・確保のためには、若者や子どもたちに農業を見せ、体験させることが大切である。私は都庁を退職してから、明治大学の公共政策大学院に勤務しているが、学部のゼミも長い間、担当した。学生は、たとえば墨田区でフィールドワークを実施した年には、墨田区役所に何人も就職する。発電所など電力関係の施設に見学に連れていくと、電力会社に就職する。影響を受けやすいのである。農業の後継者が足りないなら、実際の農業を見せるのが一番だ。そういう目的のモデル農場を各自治体が大学などと連携して各地に作ると良いと思う。都市農業振興基本法ができた今、時代の変化に応じた政策転換ができるかどうか、各都市自治体の見識が問われている。

プロフィール
青山 佾(あおやま やすし)

【略歴】
昭和18年東京都生まれ。
昭和42年東京都経済局、平成11年から15年東京都副知事、平成16年から明治大学公共政策大学院教授。



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