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視点



伝統食を守る

農林漁業金融公庫
技術参与 中村 浩



 年の始めに雑煮を食して寿ぐのは、日本列島いずこにも見られる風習である。そこに用いる餅が丸型か四角型かは、地域により違いがあるという。岐阜県の愛知・長野両県境に近い我が家では、四角の餅を用いて今日に至っている。なぜ四角なのかは詳らかにしないが、これは伝統そのもので連綿と続いてきたようである。

 雑煮と同じように、年末年始の伝統料理が他にもある。大晦日の夕食の馳走は、だいこん・ごぼう・にんじん・さといもなどの根菜と糸昆布の煮染めと決まっている。また、正月二日の朝食は、自然薯のとろろ汁で、このときの調理は男の仕事である。作法として、食後に喫茶すると中風(半身の麻痺)になるとして、白湯を飲むことになっている。

 家族揃って伝統食を楽しみながら、年末にはこの一年の無事息災を感謝し、新年には向こう一年の健勝を祈るというのが、我が家の習わしである。こうした伝統が広域に見られるのか、あるいは我が家だけのそれかは、調べたことがないので分からないが、先祖が定住して依頼、おそらく数百年は続いていると思われる。往時、旧暦で厳寒期に新年を祝ったので、貯蔵の効く根菜類が主菜となったのであろう。世代を超えて伝わった素朴な献立を家族で囲むと、話題は自ずから祖先や子孫のこと、食生活のあり方などに集まる。こうしてみると、とかく現世の生活に取り紛れている日常であるだけに、伝統食の意義は貴重で、これからも伝統を守り伝えていきたいと思う。

 ところで、11月9日付け日本農業新聞の興味ある記事が目にとまった。それによると、アメリカの映画監督モーガンさん(33)が制作した映画が、全米で大反響を呼んでいるという。

 彼は、ファストフードを毎日3回食べると、人間の体はどうなるかをテーマにした。彼自身が、30日間毎食ハンバーガーを食べながら、医者・栄養士などに食生活について取材し、街頭インタビューをしつつ20州を巡るドキュメント映画を作成した。21日目には、医者から「命が危ない」と忠告を受けた。撮影終了後3日間は、頭痛がひどく、体中が痛く、震えと汗が止まらなかった。その症状は、旬の野菜などをふんだんに使った食事で戻った。しかし、肝機能・コレステロール・血圧を戻すのに2ヶ月、体重は14ヶ月かかった。彼は、「この映画が、食の考え方を変えるきっかけになってくれればうれしい」と語っているとのことである。

 日本でも若者を中心として、ファストフードが普及している。人体実験までせずとも、全国各地に見られる多様な伝統食を大切にし、食生活に反省を加えるまたとない機会として、年末年始を過ごしたいものである。



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