[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

視点



消費者ニーズは食卓にある

全国農業協同組合連合会 
常務理事  宮 下  弘  

 首都圏にあるややグレードの高いスーパーに行った時のことです。色とりどりの種類があるバナナの売り場に驚きました。フィリピン、エクアドル、台湾の多様な国籍に加え、青っぽい台湾産、小さく可愛いモンキーバナナ、有機JAS認定付の自然栽培品、さらには1本ずつ袋に入った180円(ふつうは4~5本でこの値段)の超高級品まで7種類のアイテムが並び、さまざまな消費者の欲求に応えようとする姿に感心しました。

 以前のバナナを思い返してみると、品質不安がつきまとう果物でした。ところが、現在店頭に並ぶものは、品質が揃っており、しかも、多種多様な品揃えのため商品を選ぶ楽しみも付加されています。消費者ニーズをとらえた巧みな戦略は、国産野菜が学ぶべき事柄も多いと思われます。

 国内野菜産地は、輸入野菜の増加、消費の減少、価格の低迷等、生産を継続するかどうかの瀬戸際に立たされています。全国のJA・県段階で、安心・安全を追求して「顔の見える野菜」や量販店のインショップ、ファーマーズマーケットなど消費者接近の取り組みなどを懸命に展開していますが、野菜消費の減少に歯止めがかかりません。

 厳しい状況下、バナナと同様な販売戦略により消費が伸びているのがトマトです。従来は、桃太郎に代表される大玉トマト、ミニトマトの2アイテムが一般的でしたが、中玉系(ミディ)、水切りした高糖度系、茹でたり煮たりするイタリアン系まで、食生活の多様化・洋風化に応え、品揃えを充実することにより、消費者の選択肢の幅が広がりました。その結果、キュウリに替わってトマトが国内消費金額1位の座を占めています。

 また、消費者ニーズを的確にとらえて生産・消費を急速に伸ばしているのが「みずな」です。みずなは、伝統的京野菜でしたが、エグ味がなく、シャキッとした食感が消費者に好まれ、栽培しやすいこともあり、関東においては春菊、チンゲン菜に代わり栽培が急速に広がっています。現在では、青果売り場の定番商品です。他にも、パプリカ、ハーブなどの西洋香辛野菜、一時輸入に押され生産が減少したが、あらためて新鮮さや茎の柔らかさが見直されたブロッコリーなど、 消費者ニーズを的確に捉え生産が拡大している品目も多数あります。

 消費者ニーズは、食卓にあります。食の洋風化が進展する一方、世の中のヘルシー志向に対応し和食回帰の方向も顕著であり、いも類、豆類も見直されています。食卓に並ぶ料理は、ますます複雑化・多様化しています。これからの野菜産地は、食卓の変化を敏感にキャッチし、消費者に対し、あらゆる機会を通じ食材・調理方法・効能等を提案していくことが求められています。

 畑でつくったものを食卓に届けるという旧来型の発想から、まさに『食卓の要望に応じて畑をつくる』という発想に切り替えることが必要になっています。そんな時代になっているのではないかと、バナナの売り場を見て感じた一日でした。



元のページへ戻る


このページのトップへ