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   高齢化社会における野菜の意義

          
          神奈川県立保健福祉大学
            教授 医学博士 中 村 丁 次
          

 ヒトは、どのような状況においても、生命活動を営むために体外から必須物質を摂取する 必要があり、この成分を“栄養素”と名づけました。栄養学研究の歴史は栄養素の発見と、その機能を知ることであり、現在45-50種類の栄養素が発見されています。私達は、これら 全ての栄養素を日常の食べ物から摂取しています。
 ところが、この食べ物、冷静に考えてみると自然界に偶然存在した動植物であり、本来ヒ トの栄養素を補給する目的で存在しているものではありません。これら動植物から私たちの 命の元をいただいているのですが、ひとつひとつの食べ物はヒトに栄養素を補給するのに都 合良くはできていないのです。そこで、私達は、いろいろな食べ物を食べ、全体で栄養素を 必要量だけ確保するといった“雑食性”選択しました。ご飯から主として糖質を、肉や魚か らたんぱく質と脂質を、そして、野菜や果物からはビタミン類、ミネラル類、食物繊維を摂 取し、全体でバランスをとってきたのです。これだけ食べていれば、健康で不老長寿が約束 される食べ物も、逆に食べてはいけない食べものも、ないのです。ヒトがもし完全に健康に 良いものにめぐり合えていれば、コアラがユーカリの葉だけで生きていくように単食性を身 につけたであろうし、完全に悪いものだと毒物として食べ物の仲間にいれなかったはずです。
 ところで、野菜は、低カロリーでビタミン類、ミネラル類、そして食物繊維を多く含有す るために、生活習慣病として問題視されている肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧、癌等の予 防に有効で、現代人は積極的にとらなければならない食べ物です。また、スポーツによるエ ネルギー消費量の増大、ストレス、喫煙、疾病、薬の常用により、これらの栄養素の必要量 は増大します。たとえば、タバコを吸う人が、癌にかかるリスクを吸わない人と同レベルま で減少させようとすると、ビタミンCは倍量の200mg以上とる必要があります。
 Giem P博士らは、野菜や果物を中心とした食習慣に注目し、痴呆との関係を調べています。 彼らは、カルフォルニアで二ヶ所のコホート研究を行い、1977年から1982年にわたり痴呆の 発症状態を観察したのです。その結果、6年間で、野菜や果物が少ない群では、136名中16名 に痴呆が発症したのに対して、野菜や果物を充分とった群では、136名中、半分の8名でした。 野菜が不足する傾向にある現代人の食生活は、生活習慣病の発症だけではなく、高齢者の最 大の関心事である痴呆にも関与していることが明らかにされつつあります。
  しかし、不思議なことは、高齢化社会を迎えて、これだけ野菜の重要性が認識され、国民 の健康志向が強くなっていながら、野菜の消費が伸びないことです。日本人にとって野菜を 食べることの意義を裏付ける研究と、国民に対する適正な教育がまだまだ不足しているのか もしれません。



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