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海外情報(野菜情報 2018年7月号)


中国の日本向け野菜輸出および安全と品質向上に向けた取り組み

中国農業大学 経済管理学院農業経済科 教授 穆月英


 日本は中国にとって野菜の主要輸出先国であり、日本向け野菜の品質安全に関する問題は、日中両国において強い関心事項である。2016~17年に筆者が実施した調査によると、多くの農家が安全かつ高品質な野菜を供給したいと考えており、生産段階において品質安全のための種々の取り組みを行っている。

1 はじめに

野菜は人々の健康を保つための重要な農産物であり、不足しがちなビタミン、食物繊維など多くの栄養を補完している。中国は世界有数の野菜生産国であり、野菜の作付面積、生産量は世界一である。世界全体の野菜しゅ面積に占める中国の割合は、2002年以降40%以上で推移しており(図1)、2016年は2591万ヘクタールとなった。生産量については約50%のシェアを占めており、2016年は6億3842万トンとなった。

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近年中国では、品質管理の強化、生産技術の平準化の推進、三品一標の認証取得の強化を通じて野菜の安全および品質の向上を図っている。三品一標とは、中国政府が定めた安全かつ高品質な農産物のことを指し、有機農産品、緑色農産品、無公害農産品の三品と農産物の地理的表示を総称して三品一標と呼ばれている。有機農産品とは、生産過程において化学合成農薬、化学肥料などを使用しないことで環境負荷の低減を図り、政府機関がその品質を認証したものである。緑色農産品とは、国立緑色食品発展センターによって認証された高品質かつ栄養価の高い農産品のことである。無公害農産品とは、政府の安全管理基準に基づき生産、加工された農産品のことで、農薬などに汚染されておらず、人の健康に害を及ぼすことのない農産品のことである。

2016年の日本向けの野菜輸出額は、約13億米ドル(1430億円)と依然として高い。中国国内における野菜の安全性の確保と品質の向上は、日本向け輸出の拡大を図るとともに、輸出競争力の強化にもつながる。

安全かつ高品質な野菜の供給で重要となるのが、生産段階における管理である。中国では家族経営主体で野菜が生産されているため、農家一人一人の安全と品質向上のための生産技術の導入や農薬の適正使用などが重要となってくる。中国では農薬に関する種々の法律が定められており、農薬使用基準もそこに規定されているため、生産段階における安全性は確保されている。

本稿では、日本向け輸出を図る上で重要な野菜の生産段階における安全と品質向上のための農家の取り組みや生産技術の導入の際の要素を考察した。

なお、本稿中の為替レートは、1ドル=110円(5月末日TTS相場、1ドル=109.70円)を使用した。

2 日本向け輸出の動向

日本の野菜輸入額に占める中国産野菜のシェアは高く、2002年以降、約50%を維持している(図2)。中国野菜は、他国と比較して価格競争力はあるが、近年の食の安全をめぐる問題から評価を落としており、競争力強化のために安全かつ高品質な野菜を生産し、輸出する必要がある。2006年の日本のポジティブリスト制度の実施は、日本向け野菜輸出のハードルを引き上げ、輸出量・額の減少をもたらしたが、日本企業による中国企業に対する品質安全に関する要請の高まりは、安全性の強化と品質の向上をもたらした。

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ここでは、中国の日本向け輸出の動向を説明するために、中国側だけではなく、日本の野菜の輸入動向についても着目し、そこから日本向け輸出の特徴を明らかにしたい。

(1) 日本の野菜の輸入動向

日本の野菜の主要輸入先国は、中国、米国、タイ、韓国となっており(図2)、2007年以降中国のシェアは輸入額ベースで46~51%を占めており、依然として中国は日本にとって最大の輸入先国となっていることが分かる。米国のシェアは17%前後、タイおよび韓国は5%前後で推移している。

2017年の中国産野菜の類別輸入額の割合を見ると、冷凍野菜が36%、生鮮野菜が18%とこの2類で5割以上のシェアを占めており、そのほか、その他調製野菜のシェアが高い(図3)。冷凍野菜の内訳では、「その他の冷凍野菜」が半分を占め、生鮮野菜の内訳では、たまねぎ、にんじん及びかぶ、ねぎなどの輸入額が多い。

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(2) 中国の日本向け野菜の輸出動向

中国は野菜の輸出大国であり、2016年の中国の野菜輸出量は743万5900トン、輸出額は105億4600万米ドル(1兆1601億円)となった。主要輸出先国は、日本、韓国、米国で、日本向け輸出量は2005年をピークに2009年まで減少し、その後は増加傾向で推移している(図4)。2000年代初期と比べ減少しているが、日本は依然として中国にとって重要な野菜輸出先国であり、2016年は輸出量全体の13%を占めている。韓国向けは増減があるものの増加傾向で推移している。米国向けはほぼ変動がない。

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中国の野菜の主要輸出先国別の輸出額およびシェアの推移をまとめたのが図5である。輸出額は、日本向けが他国と比べて大きいのが分かる。輸出額の推移を見ると、日本向けは、2002年以降、増減を繰り返しながら増加傾向で推移しており、韓国と米国も増加している。輸出額全体に占める日本向けのシェアは年々低下しており、2016年は12.2%となった。韓国向けと米国向けについては比較的安定している。

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中国から日本への主要な生鮮野菜の輸出品目は、たまねぎ、ねぎとその他のねぎ類、にんにく、にんじん及びかぶである(図6)。生鮮野菜の日本向け輸出は、200308年までは変動が少なかったが、2008年以降、たまねぎやにんにくなどが増加し、その後、やや減少傾向で推移している。これらは、露地栽培を主体とする土地集約型の生産が行われており、施設栽培は比較的少ない。

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2013年の輸出向け生産地域を見ると、山東省が輸出量、輸出額ともに最大となっており、そのシェアは輸出量で44%、輸出額で36%となっている(表)。その他、湖北省、福建省、雲南省3省の輸出額が高くなっている。

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3 中国の野菜生産における安全と品質向上のための取り組み

中国は、日本にとって最も重要な野菜輸入先国であり、日本の消費者は中国の野菜の安全性および品質に高い関心を寄せている。野菜の安全性と品質を向上させるには、生産段階において、安全で高品質の野菜を生産するための技術を導入する必要がある。

2016年に北京市、天津市、ほく省、りょうねい省の農家に対し、中国野菜の安全性および品質向上のための取り組みに関するアンケート調査を実施したので、以下に紹介する。なお、これらの4地域は、トマト、きゅうり、ピーマン、なすの生産が盛んな地域である。

(1) 安全で高品質な生産方法に対する農家の認識度

安全で高品質な野菜とは、食しても人体に危険な影響を与えないものであり、また、加工原料に用いる場合にはその安全基準に適合するものである。中国において、前述した三品の認証を受けた野菜は、安全で高品質な野菜として消費者に受け入れられている。これらの認証に対する農家の認識度を調査した結果が図7となる。これによると、多くの農家はこれらの認証について何らかの形で知っており、「一部理解している」と回答した農家の割合は、各認証ともに約5割以上を占めている。認証基準が厳しい順に農家の認識度は低下しており、最も基準の厳しい有機農産品の認識度は三品の中で最も低かった。

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また、安全な野菜生産に対する農家の認識度を調査したのが図8および図9である。これらから分かるように、7割の農家は安全かつ高品質な野菜を生産できていると回答しており、また、安全かつ高品質な野菜を生産することは、農家が守るべき最低限の基本要求事項であるとの認識が強かった。

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(2) 農家の農薬、肥料の使用

生産資材の適切な使用と先進的な生産技術の導入は、安全かつ高品質な野菜を生産する上で重要な要素だと言える。現在の農薬および肥料の使用量が野菜の品質安全に与える影響を調査したのが図10である。現在の農薬散布量および施肥量が野菜の品質安全に影響を与えるかついて、「影響はない」が30%、「あまり影響はない」が23%、残りの47%は「分からない」と回答しており、過半の農家が現在の使用量は適切だと考えている。野菜農家は、中国の農薬使用基準に基づき収穫前7~15日以降は農薬を使用していないとしている。

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また、仕向け先によって農薬使用量を変えているか質問したところ、自家用と販売用で差はないと回答した農家が90%に上り、仕向け先によって栽培管理を変えていないのが分かる。なお、残りの10%は無回答であった。

(3) 安全と品質向上への取り組み

野菜農家が安全と品質向上のために取り組んでいる生産技術をまとめたのが図11である。調査対象農家553戸の回答のうち、最も多かったのが温室のくん蒸消毒で、次に微生物肥料の使用が多かった。このほか、捕虫シート、土壌消毒を行っている者も5割程度いた。多くの農家が何らかの取り組みを行っており、7項目のうち3項目以上を行っている農家の割合は50%以上であった。これらの農家が実施している取り組みは、安価でかつ簡易な方法の生産技術が主体となっている。殺虫灯や天敵農法(生物農薬の使用)を導入している農家もいた。

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4 中国野菜の安全と品質向上のための生産技術を導入する際の要素

ここでは、2017年に北京市、河北省、遼寧省において実施した調査を用いて、農家が安全と品質向上のための生産技術(以下「品質向上技術」という)を導入する際の要素などを紹介する。

品質向上技術を導入する際に影響を及ぼす要素としては、品質向上技術に対する農家の知識不足やメリットの有無などが挙げられるが、これらは既存の研究と同じ結論であった。新たな発見は、農家収入と合作社(日本の「協同組合」に近い組織)への加入の有無は、品質向上技術の導入にあまり影響しないことであった。利潤追及を第一に考えている農家にとっては、品質向上技術の導入は直ちに金銭的な利益を生まないため、収益が上がれば、それを増産のための施設や設備などに投入してしまう。それゆえに、農家の収入と品質向上技術の導入には相関関係がみられない。農家の合作社への加入の有無についても明らかな関係性はないと言える。合作社は、地域密接型と分散型の2種類に分けられ、分散型では、農業生産技術の支援や生産管理業務の提供を農家に行っていないため、品質向上技術の導入があまり進まない。

5 まとめ

日本は中国にとって野菜の主要輸出先国であり、中国は日本にとっても最大の輸入先国となっている。しかし、近年、中国の野菜輸出額全体に占める日本の割合はやや低下してきており、今後の輸出拡大を促進する上で野菜の生産過程における品質安全の向上は重要である。

今回筆者が実施した201617年の調査によると、多くの農家が安全かつ高品質な野菜を供給したいと考えていることが分かり、また、三品の認証についてもおおむね理解していることが分かった。また、生産段階において品質安全の向上のために種々の取り組みを行っており、大多数の農家は、農薬使用基準に基づいた農薬などの適正な使用を心がけている。

野菜の対日輸出については、2006年の日本のポジティブリスト制度の施行以降、日本企業側からの品質要求に応じて、中国の野菜農家の生産段階における品質安全に関する意識は向上している。



参考文献

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(3)陳暁娟、穆月英. 「中国の農産物輸出に対する貿易の技術的障害影響に関する研究——日本、米国、EU、韓国における実証研究に基づく[J]」『経済問題探索』 2014(1):115-121頁

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(5)穆月英.「日本市場から見た中国野菜の国際競争力[J]」『 世界農業』,2008,(11):38-40.頁

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(10)楊天和. 「農家の生産行為に基づく農産物安全品質問題の実証的研究 [D]」『 南京農業大学』 2006.

(11)周潔紅. 「生鮮野菜の安全品質管理問題の研究——浙江省を例に[D]」『浙江大学』 2005.


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