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海外情報(野菜情報 2012年7月号)


2011年 中国野菜輸出の動向

調査情報部 審査役 河原 壽


はじめに

 中国の対日野菜輸出は、1980年代前半までは塩蔵等野菜や酢調製野菜などの加工野菜を主体に行われていたが、日本等からの栽培方法等の技術移転や種子の導入、低温冷蔵庫の拡充、リーファコンテナ(冷蔵コンテナ)や高速道路の普及などのインフラ整備、産地開発による周年供給体制の確立や1985年9月のプラザ合意に始まる円高の進展、台風や天候不順による国内産の不作などを背景に、生鮮野菜及び冷凍野菜が増加し、また、中国における食品加工産業の発展によりその他調製野菜等の付加価値の高い加工野菜も増加し、中国は、日本にとって野菜総輸入量の50%を超える最大の輸入先国となった。
 2006年になると、日本におけるポジティブリストの導入や食品の安全性志向の高まりから対日輸出は大幅に減少したものの、2010年になると日本国内の天候不順による作柄不良により、たまねぎとにんじんを主体に増加に転じることとなった。
 本稿では、対日輸出が大幅な減少に転じた2007年以降の中国の野菜輸出の現状を中国の貿易統計に基づき把握し、中国野菜輸出の動向を考察する。

1 中国の野菜輸出の動向

 中国の野菜輸出は、対日輸出では、2006年5月29日に日本でポジティブリスト制度が導入され、主に生鮮の葉物野菜や豆類の対日輸出量が減少したものの、制度への対応を進めていた冷凍などの加工野菜では対日輸出は増加し、中国野菜輸出全体の輸出数量も増加した。しかし、2007年以降になると、対日輸出は残留農薬対策を進めている中国国家質量監督検査検疫総局による対日輸出検査強化や食品安全性問題の発生により生鮮や冷凍野菜の対日輸出が大幅に減少したが、中国の野菜輸出全体はアセアン諸国などへの生鮮野菜の輸出増加により800万トン程度で推移し、2010年以降では、日本の作柄不良により対日輸出が増加するとともに、アセアン諸国などへの輸出も増加し、野菜輸出全体の数量は大幅に増加した。

(1)生鮮野菜

 ① 2007年~2009年

 2007年から2009年における野菜の対日輸出は、2006年5月29日に日本のポジティブリスト制度が導入され、2007年の冷凍ギョーザ問題、2008年のメラミン問題と、たて続けに中国食品に対する安全性が大きな問題となる事件が発生し大幅に減少した。一方、2007年から2009年までの中国の野菜輸出全体の輸出量は800万トン程度で推移している。輸出数量が増加している生鮮野菜を地域別で見ると、増加しているのは主に日本を除くアセアン地域とロシアであり、国別ではベトナム、インドネシア及びタイのアセアン諸国とバングラディシュ、品目ではにんにく、キャベツ等あぶらな属、しょうが及びばれいしょの輸出が増加した。中国の野菜輸出は、対日輸出が大幅に減少する中、アセアン諸国や国境貿易による対ロシア輸出の増加により輸出数量全体では減少することはなかった。
 なお、中国とアセアン諸国との間では、ACFTA(ASEAN・CHINA自由貿易協定:2002年11月に締結された「CHINA・ASEAN包括的経済協力枠組み協定」及び2004年11月に締結された「CHINA・ASEAN包括的経済協力枠組み協定における物品貿易協定」)に基づく2005年7月からのセンシティブ品目を除く関税削減が段階的に実施されており、このことが輸出増加の背景にある。

 ② 2010年~2011年

 2010年、2011年になると、対日輸出が日本における天候不順による作柄不良により大幅に増加する中、生鮮輸出量全体では、2010年は天候不順によるにんにくやばれいしょの不作などから減少したものの2011年では再び増加した。
 2011年と対日輸出が最も減少した2009年を比較すると、輸出増加数量に占める対日輸出増加数量の割合(輸出数量増加の日本の寄与率)は19.8%であり、次いで、たまねぎ、にんにく、トマトなどの国境貿易が盛んなロシアが14.7%、タイが12.8%、インドネシアが12.6%、日本と同様に天候不順により不作であった韓国が11.6%、マレーシアが8.6%、ベトナムが3.4%、シンガポールが3.2%と、増加数量の多くはアジア諸国、特にアセアン諸国(39.8%)が占めている。2010年および2011年の日本の野菜輸入においては、たまねぎとにんじんの作柄不良により、中国からの生鮮野菜の輸入量は急増したが、中国の野菜輸出にとって、対日生鮮野菜輸出の増加は、生鮮野菜輸出量増加の20%程度を占めるに過ぎない。対日輸出において、日本の開発輸入による栽培技術の移転や貯蔵施設の整備、低温輸送の普及による品質向上、高速道路などのインフラ整備の進展により、生鮮野菜の輸出は、対日輸出への対応過程を通じてアセアン諸国やロシアを主体に増加している。

(2)冷凍野菜

 冷凍野菜の輸出は、海外品種の導入や加工企業の発展により、輸出数量・金額ともに大幅に増加している。対日輸出数量は、2006年の日本のポジティブリスト導入の際に、日本ユーザーなどからの情報収集や微生物などの検査体制が構築されていたことなどにより、残留農薬検査体制の構築も早く2007年は小幅の減少であったが、2008年の冷凍ギョーザ問題などから大幅な減少となり、2010年と2011年は生鮮野菜と同様に、日本におけるほうれんそうなどの作柄不良により再び増加した。

 2011年と対日輸出が最も減少した2009年を比較すると、輸出増加数量に占める対日輸出増加数量の割合(輸出数量増加の日本の寄与率)は35.1%、次いで、日本と同様に天候不順により国内産が作柄不良であった韓国が22.9%と、両国への輸出増加が58.0%を占めた。この他の輸出先国は、欧米諸国など先進国が主体となっている。低温流通の整備や小売店における冷蔵庫の普及などが不可欠であることから、アセアン諸国への輸出は、タイを除いて少ない。

2 輸出価格の上昇と今後の中国野菜輸出

 中国の野菜輸出金額は、2010年以降において大幅に増加した。2010年では、にんにく、しょうがなどの作柄不良による国内価格および輸出価格の高騰が大きな要因であるが、2011年では、にんにくやしょうがの国内価格が下落したにも関わらず、野菜輸出金額は、その他の品目の輸出価格の上昇とアセアン諸国やロシアなどへの輸出量の増加により大幅に増加した。
 中国の野菜輸出は、労働者賃金など労働者をめぐる生産コストの上昇に伴う輸出価格の上昇に直面しているにも関わらず、アセアン諸国、ロシアなどの経済成長による需要を取り込んで成長していると言えよう。

 一方、対日輸出は、生鮮野菜では他の諸国・地域に比べ取引量が大きく、価格も高い(品質も良い)ことから、中国野菜輸出企業は、今後も対日輸出を重視すると推測される。また、冷凍野菜では、生鮮野菜と同様の傾向があるものの、冷凍農産物の輸出先国に低温流通や小売段階の冷凍施設などの普及が必要なことから、今後も対日輸出の割合は高いであろう。中国の野菜輸出は、今後も対日輸出を重視しながらも日本以外の諸国・地域への輸出が増加すると推測される。
 しかしながら、対日野菜輸出は、「定時、定量、定価格、定品質」などのきめ細かな製品仕様や対応により拡大してきたが、対日輸出よりも製品仕様が緩いアセアン諸国などへの輸出先国が多様化し、対日輸出への依存度が小さくなるにつれ、日本ユーザーが求める従来のようなきめ細かい製品仕様に基づく輸出は難しくなってきており、ますますこの傾向は顕著となると推測される。
 他方、中国社会は一人っ子政策により急速な高齢化社会となりつつあり、農村においては、高齢化とともに都市部への生産年齢人口の流出により、都市部に比べ高齢化の速度は早く労働力不足が顕著なものとなっている。このことは、農村部の労働者賃金の一層の上昇を招いている。このような中、中国政府は2015年までに最低賃金を年平均13%上昇すべきとしている(「就業促進計画」 2012年2月)。従って、今後も労働者賃金の上昇に伴う生産コストの上昇が避けられず、さらに、人口の増加や都市人口の増加、所得向上などによる健康志向の高まりに伴う中国国内の需要増加と原油価格上昇に伴う生産資材価格の上昇により、今後も中国国内価格および輸出価格の上昇は継続するであろう。
 中国の野菜輸出は、アセアン諸国やロシアなどの経済発展による需要増加に支えられ増加傾向となっているが、中長期で見れば、国内需要の増加による輸出余力が減少する可能性があり、国内・輸出価格の上昇により、国際競争力は低下するであろう。
 現在の中国野菜生産・流通においては、生産性の向上、低温流通の整備などによる流通ロスの低減などが課題となっており、生産においては温室や水利施設の整備など、流通においては、緑色通道政策による道路通行料の免除、卸売市場等における増値税(付加価値税)の免除、コールドチェーン整備による20~25%と言われる流通ロスの削減、産地における洗浄、選別、予冷、コールドチェーンなどの整備を推進しており、これらの生産・流通対策の動向が注目される。


参考資料

1 中国海関統計年鑑 中国海関総署

2 中国統計年鑑 中国国家統計局

3 国家発展改革委員会 農産物コールドチェーン物流発展計画に係る通知 2010年6月18日

4 国務院弁公庁 生鮮農産物流通体系確立強化に関する国務院弁公庁の意見 2011年12月20日

5 国務院 全国現代農業発展計画(2011-2015年) 2012年1月13日

6 国家発展改革委員会 農業部 全国野菜産業発展計画(2011-2020年) 2012年1月16日

7 中国野菜産地の変貌 農畜産業振興機構編 農林統計出版




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